私は、ある大手監査法人に入社して以来、約30年間、主に米国の会計基準(以下、「米国基準」)の財務諸表監査に従事してきました。その経験は、会計監査に関係する仕事に従事する経理プロフェッショナルやこれから経理プロフェッショナルとなる方にとって興味深い話が多いのではないかと思い、当ブログで紹介することにしました。まずは、自己紹介を兼ねて、私の米国会計実務や監査実務(以下、「米国実務」)の経験から始めたいと思います。
私の大学生時代、日本はバブル経済の真っ只中で、グローバル化が叫ばれる時代でした。当時、大学の親しい友人が、国際的な大手会計事務所の華麗な世界の話をしてくれたり、先輩が、国際大手会計事務所のニューヨーク事務所における日系企業実務の話をしてくれたり、そのような影響を受けて、外資系監査法人に入社しようと考えていました。そんな中、ある監査法人の名前が、国際的な合併の際、メンバーファーム名に含まれたことをニュースで知り、とても衝撃を受けました。そんなこともあって、卒業後、その監査法人の国際部に入社させていただきました。
その頃の国際部の監査業務には、主に2つの業務がありました。1つ目の業務は、日本の米国証券取引所に登録している企業(以下、「SEC登録企業」)、もしくは、SEC登録企業ではないが、連結財務諸表を米国基準で作成している企業の監査です。私が入社するもっと昔は、まだ、国際財務報告基準(以下、「IFRS」)は存在せず、日本の会計基準にも連結財務諸表の概念はなかったため、欧米で資金調達を行う日本企業は、米国基準で連結財務諸表を作成し、監査を受けていました。そのため、このような日本企業には、有価証券報告書に含まれる連結財務諸表を、日本基準ではなく、米国基準で作成することが、当時から現在に至るまで認められています。当時は、単体財務諸表の監査を国内監査法人が、連結財務諸表の監査を別の外資系監査法人が担当するということもありました。もう1つの業務は、欧米の上場会社の子会社の連結パッケージ(財務情報)の監査です。米国基準だけでなく、英国基準やドイツ基準など、現在のように監査人が、海外会計基準に精通しているかどうかを問われることもなく、いろいろな会計基準の監査を引き受けていました。私は、入社から数年、主に大手商社の米国基準による連結財務諸表の監査と外資系子会社の連結パッケージ(財務情報)の監査を担当しました。
入社から数年後には、いわゆるドットコム・バブルの中、トヨタをはじめとする日本企業の第2次米国上場ブームの時代が到来し、米国基準監査に従事している国際部にとっては、私の知る限り、最も輝いていた黄金期でした。そんな時期に、ある日本の上場会社の米国ナスダック上場プロジェクトに参加しました。当時は、同じ監査法人で財務諸表作成支援と財務諸表監査を行うことが禁止されていない時代でしたが、財務諸表作成支援チームと監査チームの間に壁を設け、私は、日本基準から米国基準へのコンバージョンを行う財務諸表作成支援チームのマネジャーとしてプロジェクトを牽引しました。その頃は、SECに極秘に送付した届出書は非公開であったため、この頃のやりとりは公開されていませんが、最終的にSECスタッフからのコメントを全てクリアし、SECへの登録寸前のところまで行きました。しかし、残念なことに、クライアントは、コストとベネフィットの比較検討により、最終的には、SECに登録しませんでした。
その後、メンバー・ファームの米国法人ロサンゼルス事務所に勤務し、日本企業の米国子会社の財務諸表監査に従事しました。その頃の米国は、エンロンやワールド・コムの不正事件により、会計事務所を監督する公開企業会計監視委員会(以下、「PCAOB」)が設立され、PCAOBが監査基準を発行するようになり、サーベインズ・オクスレー法が制定されて内部統制監査が導入されたり、激動の時代でした。金融危機までの監査業務拡大の時期に、ロサンゼルス事務所で監査を経験できたことはとても貴重なことでした。
帰国後は、ある日本の会社の米国NYSE上場プロジェクトに参加し、SECへの届出書に含まれる財務諸表の監査をパートナーとして担当しました。上場プロジェクト中に、異例の監査人の交代があり、監査人を退任しましたが、上場後、監査を担当した会計期間の監査報告書が年次報告書に含まれなくなるまで、前任監査人として監査報告書の再発行を行いました。また、米国上場会社の持分法適用会社である日本企業の財務諸表監査も担当しました(SEC 規則S-X 3-09では、規則に含まれる2つの重要性テストのうちいずれかを充たす登録者の持分法適用会社について、その監査済財務諸表を、登録者である米国上場会社の年次報告書に含めることが要求されます)。規制当局の検査への対応については、担当する米国上場会社の子会社監査が、PCAOBの検査対象となったこともあります。IFRSや日本基準の財務諸表監査も担当してきましたが、本業である米国業務が、SEC登録会社の非上場化、米国基準からIFRSへの変更、シェアード・サービス・センター設立や本社化の推進等による在日子会社の監査範囲縮小等、年々衰退していく米国業務の流れには抗えず、新型コロナによるパンデミックが始まった頃、長年勤務した監査法人を去りました。
退職後は、米国実務からは、足を洗うつもりでしたが、結局、日本のSEC登録企業の経理部門に再就職し、専門家として現在も米国会計基準や経理ガバナンスに関係する仕事をしています。今は、米国実務に携わることは自分への天命であると腹をくくり、新会計基準を中心に紹介させていただこうと思っています。専門的で分かりにくいブログになるかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。
(by HiRO塾)