【企業事例】フジテレビジョンをめぐる一連の騒動で明らかになった事実の財務報告への影響について

2月5日に予定される株式会社フジ・メディア・ホールディングス(以下、「フジHD」という。)の第3四半期決算発表まで約1週間と迫った1月27日の夕方、株式会社フジテレビジョン(以下、「フジテレビ」という。)は、10時間超にわたるフジテレビ従業員による中居正広氏性接待疑惑(以下、「疑惑」という。)について説明する記者会見を行った。70社を超える企業スポンサーがフジテレビを使った広告宣伝を中止している中、「疑惑」によって明らかになった問題を解消するには時間を要し、今後も残りの企業スポンサー離れが進み、企業スポンサー数が「疑惑」発覚前の水準に戻るまで長期にわたる様相を呈してきた。

以下、第3四半期の決算発表まで時間がない中、報道されている限られた情報から、(1)内部統制上の問題、(2)会計処理上の問題、(3)会計監査人による四半期レビューの問題といった3つの財務報告への影響について検討を行う。

(1) 内部統制上の問題について

      フジテレビ経営者は、記者会見において、「内部統制上の問題」や「不適切な企業文化」といった説明を行っていたが、このような問題は、内部統制の構成要素における不備であり、財務報告全般に影響を及ぼすことから、単独の不備であっても「重要な不備」と評価される。報道されている限られた情報からではあるが、以下の重要な不備が存在する可能性が推定される。

      統制環境の不備

      1. 行動規範に企業スポンサー、番組制作会社、広告代理店、芸能プロダクション(以下、「取引先」という。)との接待についての倫理的行動が明確に定められていない場合、役員や従業員が倫理的に行動するための内部統制に整備上の不備が存在する。
      2. 経営者が倫理的行動に反する事例を紹介するなど、日常的に倫理的行動の遵守を強調するメッセージを発信していない場合、役員や従業員が倫理的に行動する企業文化を形成するための内部統制に整備上の不備が存在する。
      3. 通報者の秘匿性が確保されていない、もしくは、フジテレビのみならずグループ各社、外部の「取引先」を制度における通報者として対象としていないなど内部通報制度に整備上の不備が存在する。
      4. 一連の報道や記者会見から、経営者の誠実性に疑念があり、役員や従業員が倫理的に行動する企業文化を形成するための内部統制に整備上の不備が存在する。

      リスク評価の不備

      統制環境の整備に不備がある場合、従業員の共謀や経営者による内部統制無効化といった不正リスクが高くなる。経営者の内部統制評価におけるリスク評価が当該リスクを識別していない場合、経営者による内部統制評価の範囲が不十分となり、リスク評価プロセスに運用上の不備が存在する。

      情報と伝達の不備

      内部通報は、コンプライアンス部門により調査が行われる。今回のフジテレビのケースのように、従業員が直属の上司に報告した場合において、制度で定められているプロセスを無視して経営者がコンプライアンス部門を関与させずに独自で対応した場合、調査の網羅性や十分性、対応の適切性に問題が生じるリスクが高くなる。実際、被害者である従業員への不適切な対応となったばかりか、財務報告への影響など様々な影響を適時に評価した形跡がない。したがって、コンプライアンス関連の問題が所定のプロセスにおいて伝達されておらず、情報と伝達プロセスにおいて運用上の不備が存在する。

      モニタリング活動の不備

      上記のような不備がある場合、リスク評価に失敗することから内部監査の範囲が不十分となり、内部監査の計画策定において運用上の不備が存在する。

      こうした「重要な不備」が複数存在する場合、総合的に「開示すべき重要な不備」として評価されるであろう。当事業年度の内部統制報告書は、年度財務諸表の報告時において発行されるため、まだ数ヶ月余裕があるが、年度末において「開示すべき重要な不備」が報告される場合、フジテレビの内部統制上の問題は長年にわたって存在していた可能性が高いため、過年度の内部統制報告書の訂正も必要となり、過去の内部統制の経営者評価や会計監査人による財務諸表監査の範囲の拡大を伴うことから評価完了までに通常数ヶ月の期間を要し、第3四半期の決算発表の延期が必要となるだろう。言い換えれば、第3四半期の決算発表をスケジュールどおり行うためには、「疑惑」から明らかになった事実に関連する内部統制に「開示すべき重要な不備」が存在しないことを確認する評価を決算発表日までに完了しなければならないことになる。

      (2) 会計処理上の問題について

      フジテレビ企業スポンサーの広告宣伝停止は、第3四半期末日以後に発生したが、原因である「疑惑」のもととなる事実は第3四半期末日前に発生していることから、「疑惑」のもととなる事実に起因する将来の損失であり、発生の可能性が高い事象(50%以上の可能性で起こりうる損失)は、修正後発事象として第3四半期決算において財務諸表に反映しなければならないだろう。修正事項には主に以下が含まれると推定する。

      売上債権の評価

      すでに計上された売上債権(契約資産を含む)について、スポンサー企業に請求しないと決定した、あるいは、決定する可能性が高い債権については、貸倒引当金を計上する。

      資産計上された番組制作コストや関連する前払費用の評価減

      一連の騒動をきっかけに放送されない可能性の高い番組の制作コスト、関連するライセンス等の前払費用に関しては、評価減を計上し、該当する資産の簿価から控除する。

      将来キャッシュ・フローの減少による固定資産の減損

      企業スポンサーの広告宣伝停止は、フジテレビの事業モデルにおける収入がほとんどなくなる重要な事実であるため、固定資産の減損の兆候に該当すると考える。したがって将来キャッシュ・フローを見直して使用価値を見積もり、簿価が使用価値を下回る場合には減損を計上する。

      契約違約金の引当計上

      「疑惑」から判明した事実が「取引先」との契約解除事項に該当する場合、違約金支払などの損失を引当計上する。

      また、企業スポンサーによる広告宣伝の停止は、フジテレビの事業モデルが成り立たなくなることを意味し、継続企業の前提に重要な不確実性が存在すると判断されるため、不確実性を解消するための経営者の計画について詳細な開示が必要となる。

      第3四半期の決算発表をスケジュールどおり行うためには、今回の事実により必要となる会計処理や開示への影響に関する評価を決算発表日までに完了し、財務諸表に反映しなければならない。

      (3) 監査法人による四半期レビューの問題について

      四半期報告制度が改正され、当事業年度より第1四半期と第3四半期の四半期決算短信について会計監査人による四半期レビューが任意となった。

      しかし、2023年12月18日付で株式会社東京証券取引所が公表した「金融商品取引法改正に伴う四半期開示の見直しに関する上場制度の見直し等について」では、以下のいずれかに該当した場合には、第1四半期と第3四半期の四半期決算短信について会計監査人によるレビューを受ける必要があると定めている。

      1. 直近の有価証券報告書、半期報告書又は四半期決算短信(レビューを受ける場合)において、無限定適正意見(無限定の結論)以外の監査意見(レビューの結論)が付される場合
      2. 直近の内部統制監査報告書において、無限定適正意見以外の監査意見が付される場合
      3. 直近の内部統制報告書において、内部統制に開示すべき重要な不備がある場合
      4. 直近の有価証券報告書又は半期報告書が当初の提出期限内に提出されない場合
      5. 当期の半期報告書の訂正を行う場合であって、訂正後の財務諸表に対してレビュー報告書が添付される場合

      四半期レビューが要求される目的は、財務諸表の信頼性確保であることから、期中で会計不正が発覚した場合や「開示すべき重要な不備」が発見されて過去の内部統制報告書の訂正が必要となる場合、第3四半期レビューが要求されることになる。

      おわりに

      「疑惑」発覚以降のフジテレビをめぐる一連の騒動は、財務報告においても重要な問題の存在を明らかにした。フジテレビHDは、速やかに会計監査人と連携して財務報告への調査および対応を行い、今後の対応について証券取引所の了解を第3四半期の決算発表前に取り付けておくべきであると考える。

      (公認会計士・栁川洋満)

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